俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「大丈夫だ」
 カリッドはモニカの手首を掴んだ。それ以上、触れるな、という意味をこめて。だけど、それはそれで失敗してしまった。驚いたモニカがカリッドを見上げてくるのだ。
 ぷっつん、とカリッドの理性を辛うじて保っていた糸が切れた。空いている手で彼女の頭の後ろに触れ、自分の顔へと押し付ける。
 最初の口づけよりは長い時間。柔らかくて、甘くて、唇が触れているだけなのにとろけそうになる感覚。

 唇の隙間から零れてくるモニカの声で、カリッドは自分のしでかしたことに気付いた。彼女の頭を固定していた手をゆるゆると放す。

「す、すまない」

「もしかして。先ほど、その、私が団長と呼んでしまった回数もカウントされているんですか? それは、不可抗力ですよ。お茶をこぼす人が悪いんです。ただでさえ呼び慣れていないのに」

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