俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「だが、君が俺のことを団長と呼んだことはカウントしておこう。だが、今ので、君が何回呼んだかわからなくなってしまったから、とりあえず合計十回でいいな」

「なんなんですか、そのとりあえずって」
 でも、十回以上は団長と呼んでいるような気がするモニカだが、モニカ自身も数えるのが面倒くさくなりつつある。しかも二回も口づけをしたら、三回も四回も同じような気がしてきた。
 というのは、母親が「子供はね。二人生んだたら、三人も四人も手のかかり具合って同じなのよね」とよく言っていて、そんなモニカは六人兄弟なのだ。つまり、モニカの母理論によると、二と三と四は六と同じということになる。

「悪いが、また風呂に入ってくる」

「はいはい」
 モニカはあきれて、ひらひらと手を振った。恋人役も楽じゃない。
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