俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 はあ、とカリッドは息を吐いた。彼女が眠ってしまったら、何もできない。いや、何もしてはならない。イアンには無理やりはダメだと釘を刺されたから。
 カリッドは眠る彼女の顔をよく見える位置に、腰をおろした。ギシリと寝台が沈む。

 確かモニカは今年で二十二になったところだ。彼女だって結婚をしてもおかしくはない年齢であるのに、騎士としての職務のためか、いまだに独身。そして、この恋人役を頼んだ時に、付き合っているような異性もいないというようなことを言っていた。
 これはチャンスと思っていいのか。
 このようにして眠っている姿は、年齢より幼く見える。この黒い髪と白い肌はリヴァージュの民の特徴だ。だが、狩りをするためか次第にその肌は日に焼けると言われている。狩りをしない女性は、こうやって白い肌を保てるのだとか。もしかしたら、幼い頃のモニカもこんがりと日に焼けていたのかもしれない。騎士となって六年経っている今、その焼けた色も抜けてしまったのだろう。

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