俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「腕?」
 指摘されて、カリッドはあのまま自分がモニカを抱きしめながら眠ってしまったということに気付いた。ゆるゆると、その腕を解き、モニカを解放する。

「モニカ。だがな、君は昨日の約束をすっかりと忘れてしまったようだ」

「約束?」
 モニカがきょとんとカリッドを見つめる。

「俺を団長、と呼んだら口づけ、だ」
 カリッドは彼女を解放した手を、彼女の頭の後ろに添え、がっちりと固定したうえで唇を重ねる。
 深く、長く。だけどまだ、唇を合わせるだけのキス。名残惜しそうにカリッドはそれを離した。時間にして十数秒。彼にしては頑張った方である。

「もう、朝から何をするんですか。びっくりするじゃないですか」

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