俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 すると、同い年の男性で彼女の弓の腕に適う者はおらず、モニカも「私より弱い男とは結婚したくない」と言い、父親もそれに激しく同意したため、騎士団へと入団してしまった。これも父親からの薦めでもある。だからか、父親は無理してまで結婚する必要は無いとまで言っていた。

 そんなモニカだからこそ、恋人役と言われても何をしたらいいかがさっぱりわからなかった。とりあえず、まずはその姿形をなんとかしよう、ところから始めてみた。
 できるだけ女性に見えるように、いつもはサラシで潰していた胸もなんとか下着でそれなりに誤魔化した。だけど私服は、スカートというものは持っていなかった。だから、この高級なお宿に来たときには、動きやすいシャツとズボン姿という、男か女かわからないような姿をしていたと思う。
 カリッドに連れられ、初めてドレスというものを着た時、鏡に映る自分は誰だろうと思った。それからワンピース着せられ、一緒に食事をして、彼と腕を組んで歩き。
 恋人役であるとはわかっているけれど、あのように女性として扱われたことも、初めてのことだった。
 口づけだって――。

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