俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「なななな、なんですか、今のは」

「俺を団長と呼んだ五回分の口づけだな」

「いやいやいや、そうじゃなくて」

 口づけというのは、唇と唇と合わせるものだと思っていたモニカの頭の中は、真っ白になっていた。真っ白い霧のようなもやもやで覆われた感じになってしまったのは、今の口づけが彼女の知っているそれとは違っていたから。
 得体の知れないもの、それがカリッドの舌だと気付いたときには、すでに自分の舌が絡めとられていた。口の中を盛大に犯されている気分だった。口の中の敏感なところをつつかれると、背筋にゾクゾクしたものが走り抜けた。

「せっかくのお茶が冷めるぞ」
 何事も無かったかのように、すでにカリッドはカップを手にしていた。少しむくれていたモニカではあるが、彼の隣に座り直してお茶を手にする。

(もしかして、あれが恋人同士の口づけってやつ? 恋人の振りって、あれも含まれるわけ?)
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