俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「まあ、飼っているペットとかの名前であるとは思うのですが。それとなく調べておきましょう。それに、あなた様の妻になられるのであれば、やはりそれなりの家柄というものを準備しておかなければなりません。彼女の養子先候補も併せて確認しておきます」

「ああ、頼む」
 とかっこつけて答えてみるものの、カリッドのその顔は歪んでしまう。

 それを見たイアンは察した。
「カリッド様。お話を聞いてあげますから、どうぞ」

「な、お、お前は。人の心が読めるのか」

「聞いて欲しい、と顔中に書いてありますよ」

 イアンはこの不器用な主が嫌いではなかった。その理由は明確である。面白いから。恐らく今も、イアンにとっては腹を抱えて笑えるくらいの面白い話題が待っているに違いない。
< 97 / 177 >

この作品をシェア

pagetop