俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「わかってる。合意を取り付ければいいんだろ」

「勝算はあるのですか?」

「あるわけないだろ。だからお前に話をしてるんだ。むしろ今日、デートするとかモニカに言ってしまったが、ノープランなんだ。一体、俺にどうしろと」
 そこでカリッドはため息を吐きながら頭を抱えた。
 イアンはそんな主を見ながら「そんなことを口走ったのか」という思いを込めて盛大に鼻から息を吐き出した。ぷくっと鼻の穴が膨れるくらいに。
 そしてすっと立ち上がると、書き物ができるような机の引き出しから、ごそごそと何かを取り出す。

「どうぞ」

 イアンがカリッドに差し出したのは、何かのチケットのようなもの。

「本日行われる芝居のチケットです。巷で人気のある演目ですので、恐らくモニカ殿も気に入ってくださるかと」

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