狂った隣人たち
☆☆☆

荷物をダンボールに入れていくにつれて、自分の部屋はこんなにも広かったのだと感じて、中央に立つと改めて見回してみた。


17年間暮らした借家は劣化が激しく最近では羽アリの姿を見るようになっていた。


そんな時に大家から家の立替を申しだされたのだ。


生まれてからいままで1度も引越しを経験していなかった祐次にとってこれがはじめて引越し作業になる。


今でこそほとんどの荷物を梱包し終えているけれど、作業を始めて最初の頃は全然進まなくて焦ったものだ。


クローゼットの奥に押しやられていた幼い日の写真や卒業アルバムに目を奪われ、昔大好きだった漫画やアーティストのCDに時間を奪われた。


それでもこうして部屋が空っぽになったのを見て祐次の胸にはこみ上げてくるものがあった。


今回の引越しに伴い、高校も変わることになった。


本当になにもかもが変わることになるのだ。


鼻の奥がツンッと刺激されて目の前の景色が滲む。


泣くなんて柄でもなくて祐次は苦笑いを漏らして手の甲で涙をぬぐった。


引越しはこの土日を使ってする。


自分の荷物は布団を除いてほぼ全部片付いたから、あとはキッチンの手伝いくらいだ。


それがすんだらこちらの友人たちとのお別れ会に参加する。


小学生じゃないんだからと言ったけれど、本当はそこまでしてくれる友人だちが嬉しかった。


引越し当日には見送りに来てくれると言う。


引っ越してからも一緒に遊ぶ約束もしているし、電車で3駅ほどしか離れていないんだからと、祐次を励ましてくれた。
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