狂った隣人たち
その時のことを教訓にして抱っこするときには自分の体から少し離すようにもなった。


「文句ばかり言ってないで、自分の荷物をさっさと片付けろよ。引越しは明後日だぞ?」


「なんだよ、離せよ!」


暴れこそしないが口の悪さは続く。


「そんなこと言っていいのか? またヒコーキしてやろうか?」


ヒコーキとは弘人の体を重量挙げのように両手で持ち上げて、そのまま走り回ることだった。


幼稚園から小学校低学年までは、こうして遊んでやると弘人はとても喜んだのだ。


でももう5年生だ。


こうして祐次に抱っこされているだけでも恥ずかしいはずだ。


それなのにヒコーキーなんて子供っぽいことをされたらたまったものではない。


「わかったよちゃんと片付けるから下ろしてくれよ」


観念したように言う弘人を床に下ろすと、すぐに自分の部屋へと逃げ込んでしまった。


開け放たれたドアをロックするようにダンボールが積み重ねられているから、素直に片づけをはじめたのを確認することもできた。


「祐次の荷物は玄関に出してあるだけで終わりなの?」


白いエプロンにいくつもホコリをつけた母親が廊下から顔を覗かせた。


「後は布団だけ。キッチンの片付け手伝うよ」


「ありがとう。食器ももう使わないから、全部新聞紙にくるんじゃって」


そう言ってまた廊下へと戻っていく。
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