狂った隣人たち
大きさは男性の手に収まるくらいで、なにか絵が書かれている。


それは5つのリンゴの絵のようだった。


なんでこんなものが……。


そう考えた瞬間くるみの体に旋律が走った。


頭から雷に打たれたような衝撃に呼吸が止まる。


リンゴの絵から視線とゆっくりと男性へ移動させる。


思えばそうだった。


記事の中では3人の死体が発見されたとしか書かれていなかった。


ならどうして、この人は床下から這い出してきたのだろう?


もしも床下に隠されていたなら、それもきっと記事として残されていたはずだ。


そしてこのリンゴの絵。


これは幼児が数字の勉強をするときに使う単語帳なのだ。


江澤一家に幼児はいない。


しかし、この単語帳を必要としている人物は、ひとりだけいた。


「長男の……江澤和宏?」


くるみが震える声で呟いた。


その瞬間、真っ黒な人間が大きく口を開いて咆哮した。


それはケモノのように猛々しく、そしてとても悲しい、咆哮だった。
< 165 / 192 >

この作品をシェア

pagetop