狂った隣人たち
孝司の声が脳内でこだまする。


動悸が激しくなって、暴力を受けたときの痛みが瞬時によみがえってくる。


盗まないと、またやられる。


恐怖心が和宏を突き動かした。


早足で男児へ近づいていき、目の前で足を止める。


漫画に夢中になっていた男児は和宏にぶつかってしまい、慌てて足をとめた。


「ごめんなさい」


顔を上げて謝る男児の体を片手で持ち上げると、弟が自分にしているのと同じように狭い路地へと移動した。


「なんだよ、離せよ!」


荷物のようにもたれた男児は暴れだす。


和宏は男児を地面に下ろすと、男児と同じ目の高さになった。


「それ、ちょうだい」


和宏は男児が持っていた漫画を指差す。


「はぁ? なに言ってんだよ」


男児はあからさまに嫌な顔を浮かべて逃げ出そうとする。


だから和宏は男児の背中を蹴り飛ばした。


男児の体は勢い良く地面に倒れこんだ。


これも和宏が孝司からやられていることだった。


相手に言うことを聞かせるときにはこうすればいい。


和宏はそう思っていた。


「なにすんだよ」


男児がおびえた声を上げて起き上がろうとする。


和宏はその背中に馬乗りになった。


言うことをきかないから、きかせればいいだけだ。


それはとても簡単なことだった。


孝司みたいに、痛いことをすればいいだけ。
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