狂った隣人たち
時折「事件」とか「目撃」という言葉が聞こえてくる。


孝司はリビングのソファに寝転んでお菓子を食べていて、和宏は歯磨きをしていた。


お菓子は寝る前に食べちゃいけないと、母親から教わっていた。


けれど孝司はそれを当然のように破り、両親もそれをとがめることはなかった。


孝司はきっとそのくらい特別なんだと、和宏はぼんやり考える。


「ちょっと失礼しますね」


「おい、勝手に入らないでくれ」


知らない男の声と、焦っているような父親の声が聞こえてきたあと、警察官が2人リビングに入ってきた。


警察官の制服は本でも見たことがあったし、駐在さんの制服を実際にもみたことがあったからすぐにわかった。


警察官を見た瞬間孝司がソファから飛び起きてリビングの奥へと移動した。


和宏は口の周りを泡だらけにしたまま立ち尽くす。


「江澤和宏くんだね? 少し話を聞きたいんだけど、いいかな?」


その声は優しかった。


孝司とは大違いで、和宏はついうなづいていた。


「待って! なにかの間違いです、この子が小学生を殺すなんてありえません!」


悲鳴のような声で母親が警察官と和弘の間に割って入った。


その言葉に孝司が目を見開く。


和宏は首をかしげてみんなの様子を伺った。


小学生という言葉が何度も頭の中を行き来する。
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