狂った隣人たち
「知ってるよ。私のヒーローだったから」


くるみの言葉に祐次はますますわからないといった様子で首をかしげる。


「あのね――」


くるみが自分の名前を名乗ろうとしたとき、大神家の玄関が開き、中から3人が出てきた。


「あ、お父さんお母さん、お隣さんだよ」


祐次に紹介されてくるみはピンッと背筋を伸ばした。


祐次の両親だ。


それに弟の姿もある。


「あら、はじめまして。今日隣に引っ越してきた大神といいます」


丁寧に頭を下げる両親にくるみも慌てて頭を下げた。


でも、はじめましてじゃないんだ。


「私、隣の家の津田です。津田くるみ」


期待を込めて自己紹介し、祐次へ視線を向ける。


「はじめまして」


祐次はにこやかに挨拶してくれる。


けれどなにかを思い出した様子はなくて、くるみはなんだか落胆してしまう。


そりゃそうだよね。


幼稚園のときのことだし、私は引越ししちゃったし。


覚えていないと言われても、攻められることではない。


ちょっと期待しすぎてしまっていたみたいだ。
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