狂った隣人たち
「さっき先生に言われた。知り合いがいるなら、その子に頼みなさいって」


祐次の屈託のない笑顔に心臓がドクンッと跳ねる。


先生からすれば知り合いであるくるみに頼めばやりやすいと思っているのだろう。


でも、くるみからすれば祐次の後ろに立っている女子たちの視線が気になるところだった。


さっそくくるみを敵視して睨みつけてくる子もいる。


今まで円滑な学生生活を送ってきていたのに、ここに来て乱されることになるなんて思ってもいなかった。


「学校案内なら私たちがしてあげるってば!」


このクラスで一番のリーダー格の女子が声を上げる。


しかし、祐次は振り向きもしない。


「学校案内してくれるって」


みんなを敵に回す勇気がないくるみは祐次へそう声をかけた。


自分はみんなの敵じゃありませんよ。


抜け駆けなんてしませんよ。


そうアピールしないと女子生徒たちは納得してくれない。


しかし祐次は左右に首を振った。


「俺、くるみにしてもらいたい」


そんなことを言われてドキドキしない女性となんていない。


くるみも例外なく胸を高鳴らせていた。


しかし、それを顔に出してはいけない。


「でも……」


「お願いします」


その場で祐次に頭まで下げられたら断ることなんてできない。


女子生徒たちも祐次の様子を見て諦めたみたいだ。


くるみはホッと安堵の息を吐き出して。


「わかりました」


と、丁寧に承諾したのだった。
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