狂った隣人たち
窓に近づいてみると祐次がこちらに気がついて手を振ってきた。


くるみは慌ててカーテンを開いて手を振り返す。


祐次は破顔して窓脇に置いた勉強机に座った。


そういえば今日は宿題が出ていたっけ。


くるみはそう思い出し、自分の窓の横に置いている勉強机に座ったのだった。


「なにニヤニヤしてんの。気持ち悪い」


くるみの気持ちを打ち砕くようなことを言ったのは聡子、夕食の食卓でのことだった。


「べ、別にニヤついてなんか」


言いながら自分の頬を両手で包み込む。


「そういえば祐次くんが同じクラスに来たんでしょう? どうだった?」


ふと思い出したように聞いてくる母親に、くるみは一瞬むせてしまった。


「まさか祐次くんといいことがあったんじゃないのぉ?」


「そんなことないってば」


聡子の言葉を否定してご飯に集中する。


油断するとすぐに今日のことを思い出して顔がゆるんでしまうのは、どうにかしなきゃいけない。


「祐次くんは大丈夫そうなのか」


ゴホンッと咳払いをして言ったのは父親だ。


『大丈夫そうなのか』


その意味をいち早く理解できるのは、ずっとこの家に暮らしているからだと思う。


くるみの顔から笑顔が消えて真剣な表情に変わる。


「大丈夫みたいだよ。今日も普通に授業を受けていたし」
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