狂った隣人たち
祐次と一緒に歩いているときに感じる視線も少しずつ慣れてきた。


祐次がそういうことに関心を示さないから、くるみも自然と気にならなくなってきたのだ。


「明日うちにお茶でも飲みにこない?」


校門を抜けて少し歩いたところで祐次がそう言ってきた。


「え? でも明日は荷物の整理をするんでしょう?」


聞くと祐次は唇を尖らせてくるみを見つめた。


「あれは口実、わかるだろ?」


「あぁ……うん」


口実を使って断ったのに、私のことは誘うんだ?


心の中でそう思っても、口には出せなかった。


今くるみの心臓は早鐘を打っていて緊張で手に汗まで滲んできている。


「夕食をご馳走になったお礼がしたいんだ」


「それなら、家族全員で行けばいいの?」


その質問にまた祐次は面白くなさそうな表情になった。


どうやらこれも間違っていたみたいだ。


「私ひとりで行けばいいの?」


質問を変えると祐次は微笑んだ。


私ひとりで祐次の家に……。


そう思うと急に不安は胸をよぎった。


祐次と2人きりになることが不安なのではない。


あの家に足を踏み入れることが不安なのだ。
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