狂った隣人たち
☆☆☆

家から一番近い内科へやってきた祐次は腕の消毒をしてもらっていた。


「信じられない。俺の腕を噛んできたんだ」


白衣の看護師へ向けて苦々しい気持ちを吐き出す。


「確かに、すごい力ね」


歯型を見た瞬間は驚いていた女性看護師は、今は手馴れた様子で作業を進めている。


噛んできた相手が祐次の弟だとわかり、たいした事件性はないと感じて安心したためだろう。


「ここに引っ越してきてから、なんだか様子がおかしいんだ。前の家にいたときはあそこまで乱暴じゃなかったのに」


「あら、引っ越してきたばかりなの?」


「うん。住宅街の一軒屋、わかるかな? 二階建てで小さな庭がついてる」


そんな家はどこにでもあるからわからないか。


そう続けようとしたとき、看護師の動きが止まったことに気がついた。


祐次は視線を自分の腕から看護師へと向ける。


看護師は青ざめた顔をして祐次をジッと見つめている。


「なに? どうかした?」


看護師の突然の変化に驚いて声をかけると、看護師は我に返ったように作業を続けた。


ただ、その後はもうさっきまでと同じように会話をすることなく、淡々と仕事をこなすだけになっていたのだった。
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