狂った隣人たち
押し倒されている聡子と視線がぶつかった。


聡子の目には涙が浮かび、その口は弘人によってふさがれている。


その手は簡単に振りほどけそうなくらい小さいが、聡子の両頬が歪むほど強く押さえつけられているのがわかった。


「なにしてる！！」


祐次の怒号でようやく我に返った。


祐次が弘人の横腹を蹴り飛ばし、弘人はうめき声をあげて横倒しに倒れた。


「お姉ちゃん！」


慌てて駆け寄って抱き起こすと、聡子の体はひどく震えていた。


いつもの強気な聡子の姿はなくなっていた。


「お前、なんてことを……」


祐次が愕然とした声を漏らす。


視線を向けると弘人と視線がぶつかった。


目が血走り、口の端からヨダレを垂らしてケモノのようにうなり声を上げている弘人。


その顔を見た瞬間くるみの胸に絶望が広がった。


やっぱりダメだったのか。


あの家に暮らしている人間はみんなみんなおかしくなっていく。


それは大神家も例外じゃなかったのか。


ごく普通に挨拶をしに来てくれて、一緒にカレーを食べた家族を思い出すと涙が滲んできた。


無言でボロボロと涙をこぼすくるみの隣を弘人は駆け抜けて、逃げていったのだった。
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