ママの手料理 Ⅱ
あの大叔母さん…いや、ご主人様に洗脳されているから、大勢の下僕がこの環境に何の疑問も持っていない。


自分達は人権も名前もない下僕であり、生涯ご主人様に仕える身。


そういうものなのだと、はなから受け入れて疑わない。


1度返品された身である私と、怪盗パピヨンに詳しい1212番を除いて。



「…あの、1212番さん。もしオークションで下僕が買われたら、ご主人様から名前がつけられるって聞いたんですけど本当ですか?」


0823番の声で、私ははっと我に返った。


まるで犬が入る様なゲージの中で身を縮こませている0823番は、無垢な瞳を私と1212番に向けていて。


「んなわけないでしょ。名前をつけて貰えるのはレア中のレア、その他はいつもみたいに番号で呼ばれるのがオチよ」


隣の先輩下僕は棘のある声を出し、自らの右の手の甲を見せてきた。


そこには、薄くなっているものの彼女の生年月日が刻まれていて。


「私達は名前をつける価値すらない人間なの、分かる?番号でも良いから呼ばれるだけマシだと思いなさい」


「ええぇ…ちょっとこれからオークションなのに怖いですぅ…」


1212番の厳しすぎるお言葉に顔を歪めた0823番は、助けを求めるように私の方を向いた。


けれど、私も首を振るしかなかった。
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