ママの手料理 Ⅱ
この3人の中では唯一外の世界を知っている私も、名前をつけてもらったことなんてないのだから。


「…ごめんね、今まで通り数字で呼ばれると思った方が良いと思う」


私の言葉を聞いた0823番は、分かりやすく落胆した。


「そうですか…。せめて、売れ残ったり返品されて人身売買されないように頑張ります…」


そうだね、と返しながら、私は心の中で考える。


果たして、下僕として生涯ボロボロになって働くのと、人身売買されて生活するのと、どちらが幸せなのだろうか、と。



「ねえ」


不意に1212番の小さな声が聞こえ、私としょげていた0823番は同時に顔を上げた。


「もしそうなったとしても、人身売買されずに生き残る道はあるわよ」


「え?」


1212番はますます声を潜め、顔を私達に近付けた。


「0917番みたいによっぽど成績が良ければ、また学び直してオークションに出る事が出来る。…でも、あんたみたいに良い成績じゃない場合は、」


私と比較された0823番は、ムスッとした顔をした。


「あの方…ご主人様に頼み込めば、下僕用に誘拐されてくる外の世界の子供達を育成する係になれるって聞いた事があるの」


「「え?」」


今までそんな話は聞いた事がない。


ご主人様が定期的に子供を誘拐しているのは知っていたけれど、まさかそんな係があるなんて。
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