ママの手料理 Ⅱ
「湊、俺バイト行ってくるわ。帰り遅くなるかも」


この魔のレジ打ちと比べると、これから始まるであろう夜の営みの方が何倍もマシに思える。


「はーい。行ってらっしゃい」


紫苑ちゃんの時と同じように、湊に笑顔で見送られる。


じゃあ、と、片手を上げた俺は店を出て、数時間前に紫苑ちゃんが通った道をなぞるように歩き始めた。




と。


「あれ、」


ママの手料理とパパの手料理を繋ぐ一本道に、mirageのメンバー皆が持っている携帯クリーナーのストラップが落ちていた。


銀子ちゃんが作ったGPS付きのそれは、太陽と山のような模様がついているからすぐに見分けがついた。


(これ、紫苑ちゃんの…?)


この数時間でここの道を通ったのは彼女だけのはずだから、多分これは彼女のものだ。


(紫苑ちゃんに届けてあげよーっと)


バイトの時間まではもう少し余裕がある。


ストラップを拾い上げた俺は、真っ直ぐにパパの手料理へと向かって行った。



「いらっしゃいま……営業妨害するなら出て行ってくれるとありがたいね」


パパの手料理のドアを開けると、カウンター前に並ぶ女子高生相手に接客をしていた仁が俺の姿を見つけ、瞬時に皮肉を飛ばしてきた。


店長である伊織が居ないからこの店は圧倒的な人手不足に陥っていて、今は航海も臨時で働いている。


「うるさ、そっちも黙って接客してればいいじゃん」
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