ママの手料理 Ⅱ
それにしてもこの男はうるさい。


俺の事が気に食わないのかなんなのか、俺の顔を見る度にネチネチと文句を飛ばしてくる。



思い返せば、みらい養護園に居た時からそうだった。


この男はいつも何かしら理由をつけて俺を避けたり悪口を言ったり…、壱ならまだしも、仁との楽しい思い出なんて1つもない。


mirageとして一緒に活動しているのは百歩譲って許すとしても、そもそも何でこんな奴と名字が一緒なのかつくづく疑問に思う。



「あ、紫苑ちゃんどこ?ストラップ落としてたよ」


ふと我に返った俺は、紫苑ちゃんのストラップを指にかけて回しながら店内を見渡した。


カウンター席やテーブル席に座っているのは、学校帰りの女子高生や大人の人ばかり。


「紫苑ちゃん…?今日は来てないね、どうしたの」


「え?」


続いて聞こえてきた憎たらしいナルシストの声に、俺は耳を疑って。


(え、来てないの?)


ぽかんと口を開けた俺に、


「え?」


と、仁が聞き返す。


何処か腑に落ちないまま、俺は黒のウィッグをガシガシと掻いた。


「いや…、外に紫苑ちゃんのストラップ落ちてたから、来たら渡してあげて。じゃあ」


けれど、気を取り直した俺はそう言い、カウンターにストラップを置いてくるりと後ろを向いた。


「そういう所だけ責任転嫁するの良くないよ大也、良くな」


最後の言葉まで聞かずに音を立ててドアを閉めた俺は、いつものようにバイトに向かった。
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