ママの手料理 Ⅱ
「…それでは、飴も舐められたようですので、私は退出致します」


昼食を取った後、彼女は素早くお皿とフォークをお盆の上に置きながらそう言ってきた。


「それと0114番様、電話とスマホの件はくれぐれも内密にお願い致しますね」


彼女の透明な声はどことなく震えていて、うん、と頷いた私の声も何故か震えていた。



それでは、と、小さく会釈をしてこちらに背を向ける彼女に、


「待って!」


と、私は呼びかけた。



何故か、伝えるなら今しかないと思ったから。


「髪飾り、お揃いで嬉しい!覚えてないけど…覚えてないけど、0823番と沢山思い出作れたの、嬉しいから!私が下僕になったら、もっともっと楽しい思い出作ろうね!」


言いながら、理由もないのに涙が零れてきた。


もしも大也と呼ばれた人が此処に来るのなら、その後私はどうなってしまうのだろう。


3つ目の飴玉を舐めていない事が大叔母さんに知られたら、私はどうなるのだろう。


記憶もなくて疑問と謎しかないこの空間で、頼りになるのは0823番しか居なくて。


私の世界はこの小さな部屋で、その中では彼女が私の全てだった。


「だから、…命にかえてなんちゃらなんて、言わないで、」


私の掠れた声を聞いた彼女が、ゆっくりと振り返る。
< 124 / 273 >

この作品をシェア

pagetop