ママの手料理 Ⅱ
そんな中、目の前にドアを発見した俺は迷う事なくそれに近付いた。


しかし、そのドアには鍵が掛かっていて。


「これ壊せばいいかな?壊しちゃうね」


近くを低空飛行しているドローンに、俺がそう宣言した瞬間。




「…誰、」



信じられない程しわがれて、弱々しい声が背後から聞こえた。


(うっひょお!?)


ここで叫び声をあげず、口を押さえて飛び上がるだけに留めた俺を誰か褒めて欲しい。


この部屋には俺と仁しか居ないと思っていた俺が、慌てて後ろを振り向くと。


「…ぇ、」


俺たちが忍び込んだ割れた窓の近く。


カーテンレールから伸びた鎖に身体中を巻かれ、壁にもたれかかって座る少女の姿が目に入った。


暗がりでも分かる程痩せこけ、頬骨は出ていて目は虚ろ、髪の毛なんてくしでとかしていないのかもじゃもじゃで、その子の周りには外から飛んできたであろうハエが1匹飛んでいた。


「…もしかしてこの子?さっき君達が何か言ってたのは」


仁が小声で無線機に向かって尋ね、そっと少女の前にしゃがみ込んだ。


『ああ…。そいつは下僕になる直前の奴らしい。ただ、紫苑ではないはずだからお前達は鍵を壊して先に進め。廊下に出たところで電気を消す』


「そう…」


俺に背を向けて少女と向き合っている仁の背中からは、悲しみが滲み出ていた。
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