ママの手料理 Ⅱ
(…え？ナミちゃんのよりも長い、？)


土下座の姿勢で動きを止めた俺は何とか頭を回転させ、ゆっくりと言葉を紡いだ。


｢あれ、9センチヒール、｣


その途端、一斉にイヤホンから聞こえてくる声が騒がしくなる。


そうだ、確か紫苑ちゃんのストラップの中に入っていたGPSは9センチヒールによって踏み潰されていた。


という事は、もしかして、


｢紫苑ちゃんの事を誘拐したの、お前？｣


俺は素早く立ち上がり、未だしゃがみ込んでいる仁の向こうー廊下の端ーに立つ人物を睨みつけた。


｢…嫌だわ、誰よあなた達。不法侵入じゃないの、警察に通報するわよ｣


片手にもう1つのハイヒールを持ち、ストッキングを履いた足を地面につけて歩いてくるその女性からはただならぬ気配を感じた。


｢いや、そっちが俺達の家族を誘拐したんじゃん。言いがかりつけるの止めてくれない？｣


俺達から数メートル離れた所で立ち止まった彼女は、綺麗なベージュのワンピースの上から暑苦しそうなコートを羽織っていた。


先程見た少女はもっとボロボロの洋服を身につけていたのにこの人だけは悠々と着飾っていて、ふつふつと怒りが湧いてくる。


『笑美曰く、この人が染井佳乃らしい。怪盗パピヨンのリーダーだね』


頭上でホバリングしているドローンが映す映像を見たのだろう、湊の声は確信の響きを含んでいた。
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