ママの手料理 Ⅱ
発砲されたにも関わらず、ふふふっ、と物怖じせずに笑う彼女の目は、真っ直ぐに仁を見据えていた。


『おいナルシスト、今すぐ壱になれ。お前じゃ太刀打ちできねぇから早く!』


その場に座り込んだまま身動きひとつ取らない仁に、無線機越しに琥珀が大声で呼びかけた。



それもそのはず、実は仁は敵の姿が見えない間は余裕をかましているけれど、敵の姿が見えたら動けなくなる程怖がりで臆病なのだ。


あれ程自分の事を強く大きく見せているけれど、怪盗mirageとしてはまるで役に立たない。


実際、俺は仁が敵に向かって発砲したり立ち向かっていく姿を見た事がなかった。


「仁、お願いだから壱になって!お前染井佳乃に狙われてる!」


染井佳乃が笑みを崩さずに袖口から明らかに新型の機関銃を取り出したのを見た俺は、慌てて彼を後ろに引っ張った。


それなのに、物凄い力で膝を抱えた彼は無言を貫き、びくともしなくて。


「嘘でしょ、何この状況!壱になれってこの役立たず!」


思わずそう叫んだ俺は、仁を守る為に彼の前に立ってもう一度銃を構えた。



その時。


「あら?その人、仁っていうの?」


一瞬の隙も見せずに銃を構えている染井佳乃の口から、笑いが零れた。


「仁って、もしかして…。…嘘でしょう、あなた自分の家族に守られてるの?どっちが歳上なのよ、笑えてきちゃう」
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