ママの手料理 Ⅱ
「…ねえ、無駄口叩かないでくれる?」
一瞬で染井佳乃の目の前に移動した仁が囁き、彼女の喉元をナイフで横に切ったのは、ほぼ同時の出来事だった。
「…え、?」
仁はどうやら気管も切ったらしく、彼女は苦しそうに顔を歪めながらヒューヒューと喘ぎ声をあげていて。
そんな彼女が握り締めていた銃を容赦なく廊下の隅っこに蹴飛ばした仁は、本当に仁なのだろうか。
『危なかった……銀河、もう少しドローンを横に動かせられる?これ誰?壱?』
『壱だろ。今のは危機一髪だったな』
イヤホンからは、安心しきった様な湊の声と冷静な銀子ちゃんの声が聞こえてきて。
仁は絶対にこんな真似は出来ないはずだから、俺もてっきり壱が人格交代したものだと思って彼に近付いて行ったけれど。
「…だからさ、皆揃って壱の事呼ばないでくれない?人格維持するの大変だから、ちょっと黙ってて」
ただ女性の首を刃物で切っただけなのに激しく肩を上下させて呼吸しているその姿は、仁そのものだった。
フーッ、フーッ…、と相変わらず苦しそうに呼吸をして身体中が震えているにも関わらず、染井佳乃の首を絞める手は緩んでいなくて。