ママの手料理 Ⅱ
「でもさ、航海だって昨日めっちゃ叫んでたじゃん!うぎゃーって」


航海の声を真似すると、昨夜悲鳴をあげた張本人は着替えるらしく服を脱ぎながら、


「そんな事言ってません。空耳です」


非常に分かりやすい嘘をついてきた。


「ちょい待ち、あれのどこが空耳だっての?うるさすぎてイヤホン消音にしたんだからね俺」


別に航海が叫んだ理由を問いただそうとはしていないから、俺は笑いながらお菓子のポテトチップスをつまみ、上半身裸で部屋着を探している彼を見上げた。


(っ……)


そこで目に入ってきたのは、彼の身体中にある痣と傷。


もちろん怪盗mirageとしての活動中に負った怪我もあるだろうけれど、彼の身体に付けられたそれはほとんどが古傷だ。


いつだったか、好奇心旺盛だった俺が怪盗mirageに加入したての航海に聞いた事があるから、覚えている。



腹筋の上に真横に付けられた長細い傷は、父親がナイフで彼の身体を切った時のもの。


右の二の腕にある幾つもの丸い痕は、母親が彼の皮膚を使って煙草の火を消した時のもの。


彼の背中の左側が若干凹んでいてそこに大きな青痣があるのは、父親がパイプで彼を何度も殴りつけたから。


そして彼の左手首にある、何かが擦れたような傷痕は…………。
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