ママの手料理 Ⅱ
琥珀は、生まれてこの方彼女を作った事がない。


警察署でも学校でも近所でもモテていたのに、何故か1度も首を縦に振らなかった。



俺が、踏ん切りの悪い男だから良くないんだ。


「さっき外で頭冷やしながら考えてたけど、こんなにギクシャクするくらいなら俺、………」


そこまで吐き出して、俺はきつく唇を噛んだ。



言えない。


琥珀の事を諦めるって、どうしても言えない。


言葉を詰まらせながら、俺は泣きそうだった。


一途なのはいいとして、どうしてその相手がナミちゃんみたいな可愛らしい女性に向かなかったのだろう。


紫苑ちゃんに拒絶されて気づいたけれど、やっぱりこんな世界は心の弱い俺にはきつすぎる。


一世一代のあの告白の時よりも重い空気が、俺の部屋を漂った。



「……紫苑ちゃんにも引かれたし、沢山迷惑かけてごめん」


琥珀の顔も見れないまま、必死で言葉を紡ごうとした俺の耳に届いたのは。


「はぁ…違ぇんだよ」


言葉と共に大きく息を吐いた、彼の掠れた声だった。


(?)


何が違うのか判断が出来ず、ぽかんと上を見あげると。


「お前は何も悪くないし、チビは別に引いてなんかない。悪いのは俺だ」


苦しそうな、辛そうな顔でこちらをじっと見つめる、琥珀が目に映った。
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