ママの手料理 Ⅱ
琥珀大得意のポーカーフェイスが崩れ落ち、目をひっきりなしに左右に動かしている。


(琥珀……?)


声を掛けるか否か迷っていると、ようやく彼の唇がゆっくりと動いた。


「…俺は、素直に愛情表現が出来るお前が羨ましかった。……俺は昔からそういうの苦手だから」


そこまで噛み締めるように言い切った彼は、決意を固めるように短く目を瞑った。




そのままその口から流れ出たのは、初めて聞く彼の過去の話。


「……俺の母親はシングルマザーだった。俺が幼い頃に父親が家を出て行ってから、1人で俺や幼い兄弟を育ててくれた。

母親は俺達に無償の愛を与えてくれたが、自分もそれが欲しかったんだろうな。段々、母親の様子がおかしくなっていって、俺達に“大好き”と言わせるのを強要してきた。

俺は確かに母親に感謝してたが、しつこく毎日毎晩毎秒それを強要されると、嫌になってきちまって…、途中から、言えなくなった。

あの一家心中をする日の朝も、母親は俺達にその言葉を言わせようとした。あの時の母親はよく分からねぇ薬を飲み始めてて精神も崩壊し始めてた。幼い兄弟は、そんな変わり果てた母親を受け入れて愛を伝え、どこまでも一緒に居る事を決意したんだ。

……けど、俺は無理だった。
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