ママの手料理 Ⅱ
琥珀は人はもちろん、食べ物やテレビ番組に至るまで、“好き”なものを教えてくれた事がない。


俺は長年彼を見てきているから多少の好き嫌いは分かるつもりだけれど、確かに彼の口から直接その言葉を聞いた事はなくて。




それにしても、彼が“好き”と正直に言えない理由が過去に起因しているなんて寝耳に水だった。


頑張って琥珀の方を見て聞いていたはずなのに、最後の方は涙が零れてきたせいで視界はぐちょぐちょで。


「だから、俺は彼女を作らないんじゃなくて作れない。この家族や他人の事がどれだけ好きでも伝えられない。それはお前のせいじゃねえ」



多分、琥珀は嬉しくて悔しかったのだ。


俺を含む色んな人から大好きだと、信頼していると言われて。


それでも、どれだけ自分が相手と同じ気持ちを持っていても“俺も”とは言えない。


愛情のキャッチボールが出来ずにただ黙って受け止め、そんな自分が悔しくて時には冷たい言葉であしらって。


思った事はすぐ直球で伝えてしまう俺には分からないその気持ちを想像して、俺はベッドサイドに腰掛けて枕を抱きしめながらグズグズと鼻をすすった。


枕に涙がゆっくりと染み込んでいく。
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