ママの手料理 Ⅱ
珍しくパソコンを開いていない銀子ちゃんは、ゔゔぅー、と唸りながらパソコンの上にうつ伏せになった。


「大きなショック、かー」


俺は、蓋の裏側についたヨーグルトを舌で舐め取りながら呟く。


紫苑ちゃんが記憶を取り戻す程の大きなショックとは、一体何なんだろうか。



「…てか、このヨーグルト美味いんだけど」


不意にそう呟くと、


「それ買ったの俺だから崇め讃えろ」


と、全く気力がない声で銀子ちゃんが言ってくる。


懲りずにそんな事を言い続けていて、流石に飽きてこないのだろうか。


湊は、そんな銀子ちゃんを見て呆れ顔を浮かべている。


「神様気取りしないで無理」


鼻で笑うと、応戦する為に彼がのそりと顔をあげた。


「おい、俺はキリストも土下座す」


「キリストも土下座する天才ハッカー、銀河様…?」


しかし、そんな天才ハッカーの声は部屋に入ってきた他の人の声に遮られて。


(……え?)



銀子ちゃんが勢い良く振り向き、俺も彼を追いかけるようにドアの方に目を向ける。


「あ…、おはようございます、皆さん」


そこに立っていたのは、怪盗パピヨンの鎖から解放された少女だった。


「紫苑さん、今銀河さんの事……」


挨拶もそこそこに、航海が呆気に取られた様子で口を開いて。
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