ママの手料理 Ⅱ



どうしよう、俺は何か間違ってたかな。

銀子ちゃんと琥珀が言った通りにしたら、こんな事になっちゃったよ。

紫苑ちゃんがおかしくなったら俺のせいだ、ごめんなさい。


そう言いたくても、言葉が喉につかえて出てこない。


俺はただ、皆と同じように目の前で蛇のように暴れる彼女をただ見つめる事しか出来なくて。



メンバーが集まる間、


「痛い痛い痛い痛いっ…あぁぁぁぁああ!」


と叫んでいたはずの彼女は、体力が無くなってきたのか、


「痛…死……mir…OAS……隠れん……」


と、頭を強く抑えながらポロポロと単語の欠片を呟くのみ。


「大丈夫、かな…?」


誰かが、ぽつりと呟いたその時。


「…仁さんの、お店……行かせて、」


今まで呻いていたはずの彼女の声がピタリと止み、続いて完全な文章が彼女の口から零れたのだ。


(え、?)


急に何を言い出したのか分からず、ぽかんと口を開ける。


「お願い、行かせ……嫌だ、飴食べたくない……」


「紫苑、自分が誘拐される直前の事を思い出してるんじゃ…?」


目を固く瞑って涙を流しながらそう言い続ける彼女をじっと見守りながら、湊が震える声で呟いた。


事件当日、確かに彼女はパパの手料理に行く途中で誘拐された。


(そっか、紫苑ちゃんそんな事思ってたんだ……)
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