ママの手料理 Ⅱ
「懐かしいな…あっちで、元気にしてるかな」


私は、自分の机に置かれたピンク色の蝶の髪飾りを見つめながらぼんやりと呟いた。


彼女がもうこの世に居ないなんて、私を守って死んでしまったなんて本当は信じたくない。



(違う違う、動画見なきゃ)


しんみりした空気に浸かりそうになった私は慌てて首を振り、アルバムをスクロールした。


「……あ」


そして見つけたのは、

『しおんさまへ』

という題名の動画だった。


(銀ちゃんが言ってたのってこれかな?)


兎にも角にも、見ない事には何も始まらない。


静寂の流れる部屋の中、私はそっと動画の再生ボタンを押した。




真っ暗な画面の中でガサゴソと音がしたかと思うと、いきなりハナの顔面アップが現れた。


『……こんにちは、紫苑様。0823番です。今この動画をご覧になっているということは、記憶が戻ったということですね』


(私の名前と記憶が無かった事、知ってたんだ…!)


体勢を立て直したらしい彼女の声は小声で、周りに聞かれないようにかなり神経を使っているのが分かる。


トイレで撮影しているのか、ハナの後ろには便器とトイレットペーパーが映っていて。


いかにも彼女が秘密の撮影場所に選びそうなところで、つい笑みが零れてしまった。
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