ママの手料理 Ⅱ
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ここは、南山刑務所の一室。


「よぉ、久しぶりだな」


蚊に刺された腕をポリポリと掻きながら何冊にも積み上げられた医療の本を読み漁っていた伊織は、地を這うようなその声に文字通り飛び上がった。


「こ、琥珀!解毒薬の事だよね?ごめんね、材料は分かったんだけど分量の計算が合わなくて…」


慌てたように謝る伊織の、色落ちした金と黒の髪が揺れ動く。


「あー、もうそれは必要なくなった」


鉄格子に身体をもたれかけながらそう言い切った琥珀の言葉はやけに鋭く、伊織の本を持つ手に力が籠った。


「何で……、?もしかして、」


琥珀は、紫苑ちゃんの記憶が戻るのを諦めたのだろうか。


そう言いたくて口を開くと、


「ああ、その通り」


伊織が何か言う前から、彼は受刑者の方を真っ直ぐ向いて頷いた。


(!?)


「あいつの記憶が戻った」


しかし、彼の口から飛び出たのは思いもしなかった台詞。


「チビは今までの事を全て思い出した。…伊織、お前が教えてくれた方法を試したらあいつの記憶が戻ったんだよ」


はーっ、と、大きな息を吐いて安堵の表情を浮かべている彼からは、どれ程紫苑ちゃんの回復を待ち望んでいたかが伝わってくる。
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