ママの手料理 Ⅱ
彼の真意が分からず、言いかけた言葉が消えていく。


「……んまあ、そういう事だ。じゃあなクズ、死ぬんじゃねーよ」


彼はさっと左手を上げ、そのまま出口に向かってしまった。



「誰が死ぬもんか……」


警察官の足音が聞こえなくなった独房の中、伊織は深く息を吐いて天井を見上げた。


mirage…特に紫苑ちゃんと琥珀の幸せを願う事しか、今の自分に出来ることはない。


「あー、ほんとに記憶戻って良かった…!」



努力が報われると、人はこんなにも嬉しくなれるのか。



一筋の涙が、伊織の目から零れ落ちた。







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「待ってこのケーキめっちゃ美味しい!誰作った人挙手して!」


その日の夜、仕事から帰ってきた琥珀を迎え入れた俺達は、大々的に『記憶復活祭』を開いていた。


俺ー伊藤 大也ーの呼び掛けに手を挙げて答えたのは紫苑ちゃん、湊、航海、笑美の4人。


「航海は違うでしょ、ただつまみ食いしてただけなのにー」


「本当の事言わないでくださいよ。卵も割ったじゃないですか」


紫苑ちゃんの大きな突っ込みに航海が真顔で答え、


「手がベトベトになったとか言ってすぐお店戻ったじゃん!」


と、湊が苦笑いを浮かべる。
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