ママの手料理 Ⅱ
笑美は一足先にお風呂に入っているから、実質リビングで起きているのは俺と禁酒中の琥珀しか居ない。


「まあ良いじゃん?そうだ、今日撮った写真、明後日仁が現像してくるって」


動く気力がない俺は、目線だけを動かして彼にそう伝える。


「んなもん要らねぇよ」


彼が積み上がった皿をシンクに置いた瞬間、ガシャンと大きな音がした。


「そんな事言わないでさ。…割れた?」


「割れてねぇ」


「ナイス」


「お前も手伝え」


「んー、ちょっと休憩」


彼と弾ませるテンポの良い会話が心地良い。


ふふっ、と口角を上げた俺は、そのままの流れで大きく欠伸をした。


「ふわぁ……何か眠い、俺ちょっと寝るわ。何かあったら起こして」


「は?お前一旦寝たらテコでも起きねーだろうが」


途端に、琥珀から鬼のような形相で睨まれる。


「…良く知ってんじゃん、俺の事」


もちろん起きる気なんてさらさらない俺は、ゆっくりとソファーに歩み寄って深く身体を沈めた。


「とにかく寝る!…おやすみ、琥珀」


遠くの方で、大好きな彼のため息が聞こえた気がした。




今日のパーティーでよっぽど疲れていたのか、すぐに浮遊している感覚に陥って。


(…なんか良く寝れそう、……)


そんな事を考えつつ、いよいよ意識が飛びかけた最中。







「………やっぱりお前は凄い奴だよ、大也」







ソファーからずり落ちた左手が包まれ、あの人の声が耳元で聞こえた。




その響きは今まで聞いた事がないくらい優しくて、麗しくて。




たちまち、胸の高鳴りが眠気にも負けない程大きくなる。




(びっくりした……俺からしたら、琥珀の方が凄いよ)




俺の言葉は、彼に届いただろうか。





次に何かを考える余裕もなく、俺は眠りの世界へと誘われていった。
< 254 / 273 >

この作品をシェア

pagetop