ママの手料理 Ⅱ
そういえば、彼のいでだちは仕事の日のスーツ姿。


仕事は大丈夫なのかな、わざわざ俺の為に休んだとか?



取り敢えず、起きたよ、と言いたいものの、口の中の水分が奪われていて口も開けられない。


仕方なく、瞬きをして頷きを表現すると。



「大也っ……あぁっ、良かった………!」


一瞬にして彼は顔を歪ませ、そのままベッドのシーツに埋めた。


俺の手を握る力が強くなり、当の琥珀は肩を震わせて泣いている。


(っ……!)


彼が泣いているところなんて、初めて見たかもしれない。


琥珀、俺が目覚めて嬉しいんだ。



「…俺の、俺のせいでお前…倒れた時、本当にもう駄目だと…っ……また、俺のせいで、家族が死ぬんじゃないかって…、」


くぐもっていて嗚咽混じりだけれど、彼の声は俺の耳にしっかりと届いた。



そうだ、琥珀が自分の過去の話をしてくれたのはOASISに攻め入る前日、俺が彼に告白したあの夜だ。


夜寝る前、どうしても“好き”と言って貰いたくて気持ち悪いくらいしつこくせがんでいた俺に、彼は苦々しい顔をしながら語ってくれたっけ。


『俺が好きだと言った奴は死んだんだ。俺はお前にも死んで欲しくないんだよ』


そんな彼の想いを受け止めて、俺は離さなかった。
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