ママの手料理 Ⅱ
「…大也さん、おかえりなさいっ……」


そして最後に入ってきた航海は、おもむろに眼鏡を外してそっと涙を拭っていて。


感情が凍結され、今まで泣くことが出来なかった彼の初めて流す涙は澄みきっていて、


「あれ…違うんですよ、悲しいわけじゃないんです。とても嬉しいんですけど、どうしたんでしょう…」


困惑したように手を震わせる彼の目からは、ぽたぽたと沢山の雨がベッドのシーツに染み込んだ。





その後医者から聞いた話では、信じられないが何と俺はOASISとの決戦後10ヶ月も意識不明の重体だったらしい。


最初の1ヶ月はICUで予断を許さない状況だったらしく、mirageの皆は一睡もせず入れ代わり立ち代わりで俺の病室に足を運んでくれたんだとか。


その後、自力で呼吸出来るようになって酸素マスクが外れた俺は一般病棟の個室に移り、大量の薬やら何やらをチューブで身体に入れられ、今に至る。



「大也が目を覚ましたのは奇跡なんだ。同じく彼岸花の毒を食らったラムダは、年明けすぐに心不全で亡くなったらしくて…。大也はまだ生きたいって思ってるんだって、皆で何度も言いながら過ごしてきたんだよ」


目覚めてから数日後、まだ身体の筋肉も動かせなくて声もろくに出せない俺の頭を撫でながら、湊が教えてくれた。
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