ママの手料理 Ⅱ
そのまま目線をずらすと、彼らはこくこくと頷いていて。


「大也さん、意識なくても琥珀さんの事分かるみたいだったんですよ。琥珀さんが手を握って話し掛けると、毎回心拍数が上昇してたんです」


(あ、もしかして)


航海の話を聞いて、思い当たる事があった。


夢の中で、何度か聞こえてきた琥珀の声。


俺が目を覚ます直前に聞こえていたのも手を握られたような感覚も全て、現実世界の彼の行動だったのか。



「実は、大也が吸収してしまった毒を取り除く為の薬を、明後日投与する予定だったんだ。…もう、大也が毒に対する抗体を作れないと思ってたからね」


色々と感慨深くなっている俺の意識を呼び覚ましたのは、湊の一言。


「でも、大也はちゃんと抗体を作った。毒に打ち勝った。…だから、その薬は要らないね」


本当に凄いよ、良く頑張った…、と、湊は自分で言いながら感動したのか目に涙を浮かべていて。


恥ずかしいなと思いつつ、俺の目尻から耳にかけても温かいものが流れる感覚がした。








━━━━━━━━━━━━━━━……………………


「おい、元気にしてっかカス」


此処は、南山刑務所の一角。


10月も終わりに近づき、そろそろ町はハロウィンの雰囲気が漂ってるのかな…とか何とか考えながら手を開閉していた俺ー早川 伊織ーは、不意に鉄格子の外から聞こえてきた例の声に文字通り飛び上がった。
< 263 / 273 >

この作品をシェア

pagetop