ママの手料理 Ⅱ
「こ、琥珀…!どうしたの急に、」


彼の右腕はいつものようにスーツのポケットに入れられていて、嫌でもそこに目線が行ってしまう。



この10ヶ月…いや、OASISのボスである荒川次郎に自分の罪を知らされた日から、俺はずっとその件について悔やみ続けてきた。


あの日、どうして素手で闘う事に重きを置いていたはずの俺はわざわざ銃とナイフを使ってしまったのだろう。


紫苑ちゃんがあの後頭を手術したと聞いた時も、航海が弾丸を受けて松葉杖生活になったと知らされた時も死ぬ程後悔した。


そして、1番俺を憎んでいるはずの琥珀は、こうしてたまに俺の様子を見に来るのだ。



「今日はお前に伝える事があって来た」


ぶっきらぼうにそう言い放った被害者は、俺を終始睨みながら鉄格子に寄りかかった。


「大也に投与する薬だが……あれはもう必要なくなった」


「……え?」


どういう事だ、あの薬が無いと大也の身体で抗体は作られないのに。



琥珀から大也の容態を知らされたのは1月の終わり、あの日から丁度1ヶ月が経った頃だった。


『おい、お前伊達にOASISの幹部名乗ってねーよな?ちょっと頼まれてくれ』


俺よりもこの人が牢屋行きではないかと疑いたくなる程の殺気を放ちながらやって来た琥珀は、大也の事を端的に説明すると医学書や花の図鑑を牢屋に投げ入れてきた。
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