ママの手料理 Ⅱ
その紙切れをポイッと独房の中に投げ入れた琥珀は、一息ついて俺の顔を見つめてきた。


「仁もああ言ってる事だし……さっさとムショで反省して戻って来いよクズ野郎」


(………!?)


その言葉が本心から来ているものなのか読めなくて、俺は口を半開きにして固まった。


そんな俺を見て鼻で笑った彼は、


「じゃーな情報屋、死ぬんじゃねーよ」


決め台詞を残し、颯爽と歩いて行ってしまった。


「え、…………」


残された俺は、ただ放心状態でその場に座り込むばかり。


情報量が多すぎて、頭がついて行かない。



しばらくして、俺は琥珀が投げ入れた紙切れを拾い上げた。


裏返すと、そこには仁の見慣れた字がびっしりと書かれていて。


(あ、…)



その最終行には、こう書いてあったのだ。




『皆待ってるから、安心して帰っておいで』


と。




「……うっ……っ…」


その言葉が本音だろうが建前だろうがどうでもいい。


今はただ、この言葉を糧に生きるしかない。


此処でしっかり反省するまでは、死ぬわけにはいかないんだ。





古く寂れた独房の中、俺はその紙切れを握り締めて泣き崩れた。




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