ママの手料理 Ⅱ
笑顔で恐ろしい事を言ってくる彼女を見て、私は軽く身震いをした。


「分かった…。終わったらまた呼ぶね」


「かしこまりました」



部屋に残された私は、ドアの方を見て大きなため息をついた。


「こんなに畳むのか…、仕方ない、1人前の下僕になるためにも!」


覚悟を決めた私は、バスケットから大量のエプロンを取り出して床にこんもりと2つの山を作り。


「うげぇ……」


作業を開始する前から、また大きなため息をついた。




「ああやっと終わったー!」


バスケットの中に綺麗に畳んだエプロンを積み上げた私は、満足気に大きく伸びをした。


あれから、体感では数時間が経った。


何せ、この部屋には時計がないから今の時間が全く分からない。


食事の時間は毎日決まっているのと、毎日午後2時に


『黒木温泉へようこそー』


というバスのアナウンスが外から聞こえてくるからその時の時間は分かるけれど、その他は0823番に聞かない限り時間を知る術はないのである。


チリンチリン……


いつものように鈴を鳴らして彼女を呼ぶけれど、通常ならすぐに聞こえる“どうなさいましたか?”という声はいつまで経っても聞こえなかった。


「0823番、来ない……」


授業でも受けているのだろうか、その後私がいくら鈴を鳴らしても、彼女が現れる事は無かった。
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