ママの手料理 Ⅱ
とはいえ、何処に向かったら0823番に会えるのか分からない。


両側にある部屋からは微かに誰かの声が聞こえてくるけれど、それらはどれも0823番の声ではなかった。


(……あれ、)


廊下の突き当たりに見える階段まで向かう最中、私は違和感に気付いてはたと足を止めた。


「この感じ、知ってる……」


初めて見る光景のはずなのに、廊下の両側に部屋が何個もあって突き当たりに階段があるこの景色を、私は知っている気がする。


(デジャブ……?)


一瞬首を捻りかけたけれど、


(いや、そもそも熱を出す前はここを何度も通ってたんだし、見覚えがあるのも当たり前か!)


自分の記憶が抜け落ちていたことに気づいた私は納得し、またバスケットを手に持って歩き始めた。



と。


「え、」


私の脳内に、知らない場所の景色が映った。


私がドアを開けると、それと同時に目の前の部屋のドアが開いて誰かが出てくる。


(何これ、)


『あ、おはよう!』


そう挨拶する声は私のもので、相手も私に気づいて片手をあげてくれる。


『おはよー、今日も良い天気だねー!』


聞き覚えのない男性の声が、脳内で再生された。


(……?)


確かに聞いた事のない声のはずなのに、脳内で再生される此処ではない廊下の景色もその男性の声も、どこか懐かしく感じる。
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