ママの手料理 Ⅱ
急いで言い訳を並べ立てた俺に眉間に皺を寄せてそう言い放ったのは、カウンターで黙々とレジの準備をしていた山崎 航海(やまざき うみ)だった。


「ああいや違うの、これには訳があってね!?」


「…もういいです、別に僕は感情のない人間なので何も感じていません」


「…おいクソホスト、そのフォローの仕方は良くなかったな」


必死で弁解しようとするも虚しく、色覚調整眼鏡を付けた航海にはあしらわれ、銀子ちゃんにはいかにも不憫そうな顔をされた。


(本当に違うんです伊織の事考えてたけどそんなの口が裂けても言えないじゃんね!?)



…いや、事の元凶はこのマカロンのせいだ。


「誰だよこんな笑ってないマカロン発注した奴…!」


理不尽な怒りの矛先を罪のないマカロンに向けた俺に、


「ふふふっ、…大也って本当にいつも面白いよねー」


今までの俺の言動のどれが面白かったのか、完全にツボに入ったらしい紫苑ちゃんが口を押さえて笑っていた。







俺は、こんな他愛もない事で笑える彼女が心底羨ましい。




このまま、過去を振り返らずに歩んでいきたい。




家族は全員揃っていないけれど、ずっとこの幸せな生活が続けばいいのに。





開店準備に追われる店の中。


荷物を運ぶ最中、俺はそんな事を考えながら口元に笑みを浮かべた。
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