LOVEBAD~ヤクザの息子の副社長と最低最悪の身籠り婚~
「それより、こんな所で何してんの?」
そう訊かれ、私は手にしていた、
泥水で汚れたネクタイを三咲に見えるように持ち上げる。
それは、いつか私がこのドブに投げ捨てた、えんじ色のネクタイ。
「そのネクタイ…」
「ごめんなさい!
私、このネクタイが二葉さんから貰ったものだなんて知らなくて!
だから、前に三咲にムカついて、この場所に捨てて」
「…ちょっと、待って。
俺も、そっち行く」
そう言って、三咲は私の返事を待たずに、
柵を乗り越え、飛び降りて来た。
このドブの水深は、私の膝くらいなので。
三咲のスーツのズボンは、同じように膝辺り迄泥水に浸かった。
「いいの?スーツ?」
三咲の高そうなスーツに目を向けた。
クリーニングに出しても、もうダメなんじゃないだろうか?
それくらいに、このドブの水は汚れている。
「そのネクタイ、巻いて」
そう言って私の前に立ち、していた紺色のネクタイを外した。
「え、でも…」
私の手にあるドロドロに汚れた、ネクタイを見る。
あれ程綺麗なえんじ色だったのに、今は黒に近くて。
洗って、元に戻るだろうか?
三咲は迷っている私の両手を掴み、
私の手を操りながら、自身にそのネクタイを巻いて行く。
スーツのジャケットや、ワイシャツが泥水で汚れ、ネクタイが少し触れた三咲の頬も汚れた。
「相変わらず、器用だね?」
そう言った私に、まあね、と笑っている。
ネクタイは、綺麗に締められている。
ネクタイを締めた後も、三咲は私の両手を、同じように両手で繋ぐように握ってくれている。