裸足のシンデレラは御曹司を待っている
時刻は19時。日の長い沖縄の空は、穏やかな薄紫に染まり、太陽が沈む西の水平線のあたりは、にじみ出るような金色から茜色のグラデーションが掛かっていた。
建物や電線で切り取られた都会の空とは違い。どこまでも広い空は絵画のように美しく時間ごとに違う表情を見せる。

「本当にここの景色は素晴らしいな」

直哉の言葉に頷いた。

「子供の頃からずっと見ているけど、毎日見ても見飽きることが無いんです。ホッとして癒されます。また、明日に繋がっているんだなって、思えるんです」

「同じ空のはずなのに東京とは見える空も違うんだな」

東京の空……。
5年前に直哉のマンションを見上げた背景に空があったはずなのに、どんなだったか思い出せない。それを思い出すと当時の辛い気持ちが蘇り、返事をした声のトーンが下がってしまった。

「そうですね。東京と同じ空なんですよね……」

「同じ、日本なのに不思議だな」

そんなおしゃべりをいているうちに、県道から私道の砂利道に入り、おばあの家、自分の家を通りすぎ、一番奥の城間別邸の駐車場にたどり着いた。
チャイルドシートで眠る真哉に声を掛ける。

「シンちゃん、起きて。今日は、城間のおじさんのおうちにパパと泊まるんだよ」

「うん……、ねむい。ママだっこして」

「シンちゃん甘えん坊さんで、しょうがないなぁ」

と言いながら、真哉を抱き上げた。
ずっしりと育った子供の重みを感じる。

「俺が抱き上げられなくてごめんな」

足の怪我の後遺症で、左足に力が入らない時がある直哉。子供を抱き上げて歩くのは困難だ。すまなそうに眉尻を下げる直哉に謝らなくていいよと首を振る。

「子供の成長なんてあっという間なんです。この重さを感じるのも今だけの特典。その特典を私は楽しませてもらっているの。そして、直哉さんは楽しめなくて残念なんです。後で、椅子に座って真哉の重さを楽しんでください」

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