裸足のシンデレラは御曹司を待っている
陽太とふたり、家の外に出て、私は玄関のカギを取り出した。
普段、少しの時間ならカギなどかけない。わざわざカギを掛けたのは、長時間外出することを意味する。きっと、横にいる陽太もその意味を汲み取っているはずだ。
カギを掛けながら、陽太に対して残酷な事をしているんだなと思った。

「ごめんね。私、行くね」

陽太は、眉間にしわを寄せ低い声で「ああ……」とだけ呟く。

陽太に背を向けて城間別邸へと歩き出す。足を踏み出すたびに足元の小石がジャリジャリと乾いた音を立てた。

直哉のところに行くと決めたのだから、振り返っちゃダメだ。
ここで振り返ったら陽太だって、あきらめがつかなくなる。

だんだんと周りの景色が歪みだして、ツンと鼻の奥が痛い。涙がこぼれないように空を見上げると切れそうな三日月がポツンと浮いている。

私……陽太に『ごめんね』じゃなくて『ありがとう』って、言いたかった。

城間別邸の駐車場を過ぎ、花ブロックの先を曲がると、芝生の先に建物が見える。明かりのついたガラスの向こう、ソファの上で直哉が息子を膝の上で抱いている。
その光景は、自分が欲しかったもの。思い描いた幸せの形。

今度こそ、幸せを掴めるはず。
進む足がだんだんと速くなった。
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