裸足のシンデレラは御曹司を待っている
バスルームに足を踏み入れた。
大きなガラスの向こう側は夜の帳が下り、無数の星が瞬いている。その中にゆりかごような三日月が浮かんでいた。

ブラインドもあるけれど、窓の外は目隠しの木々が植えられている。ブラインドを使わずにガラスのままでも誰かに見られる心配などない。
半露天風呂的に楽しめる贅沢な作りだ。

24時間循環式のバスタブにゆっくりと身を沈めたいと思ったけど、直哉の事を考えるとシャワーだけ浴びることにした。

カランを上げれば、大き目のシャワーヘッドからたっぷりと繊細なミストシャワーが降り注ぐ。備え付けのボディーソープを泡立て、体を洗い始めた。

首まわりや、耳の裏、そして足の指の間まで、なんだか、いつもより入念に洗ってしまう。

いやいや、エチケットというか、マナーというか、綺麗にしないと恥ずかしいよね。なんて、つい、言い訳じみた事を一人でブツブツと呟き、体をゴシゴシこすった。
自分より年上なのに寂しがり屋で甘え上手の直哉。その彼からの誘惑に心が浮き立ち落ち着きがない。

体に着いた泡を流そうとカランに手を掛けた。その時、浴室の扉が開く。

「ひゃっ!」

思わず変な声が出た。
だって、だって、直哉が入ってくるんだもん。
私、先に入るって言ったのに……。






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